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福岡高等裁判所 昭和26年(う)3879号 判決

刑事訴訟法第三百十二条第二項に所謂「裁判所が職権により検察官に対し訴因又は罰条の追加変更を命じ得る」旨の規定は刑事訴訟法第一条の規定する刑事訴訟法の目的、並びに審判の対象、判決の既判力の範囲などから考察して裁判所が実体的真実発見と刑罰法令の適正且つ迅速な適用実現のために審理の経過に鑑み適当とみとめるとき、たとえていえば、証拠調の過程に照して検察官の主張する訴因が明白に立証せられず、その公訴事実の同一性を害しない限度で他の訴因が立証せられ訴因を変更するならば、容易に公訴を維持できると思料されるにも拘らず、検察官がみづから訴因を追加変更しないような場合には、本来訴訟当事者として検察官がその責任と判断に基いて為すべき訴因又は、罰条の追加、変更を例外的に職権を発動して検察官に対しこれを命じなければならない職責があることを明かにしたものと解するを相当とする。尤も刑事訴訟法は他面に当事者主義的訴訟形態を採つておるので常に裁判所に訴因又は、罰条の修正を命ずる職責があるとすることは、行き過ぎであつて要は犯罪の性質犯罪の構成要件的特徴の差異、程度等を勘案し各具体的場合において職権主義と当事者主義との合理的調整の見地から、これが有無を判定することとなるのである。ところが本件において記録を調査するに、昭和二十五年十月十九日附起訴状の記載によると、公訴事実(一)及び(二)の事実はともに昭和二十二年七月上旬頃の被告人の収賄の所為に属し、犯行の時から既に三年を経過した後の公訴提起にかかること一見明瞭であるので検察官の主張する訴因が請託を受けない単純な収賄であるならば、時効期間の完成により右公訴は維持し難く、免訴の判決を受けるを免れないことは容易にこれを看取し得るところであり且つ起訴状にはともに「○○○○○事件の処理につき寛大なる処理を受けたき趣旨のもとに贈与さるるの情を知りながら、その職務に関して現金○○○○○○○を収賄し」との文言を用い、その罰条として単に刑法第百九十七条と掲記されているに過ぎず、同条第一項前段とも後段とも記載されていない。従つて請託を受けた収賄を訴因とするものであることは未だ明白であるというを得ないけれども他面検察官から取調を請求し原審において適法に証拠調が施行された検察事務官作成の被告人の第二、第三回供述調書の各記載その他の資料によると、被告人が請託を受けて収賄したのではないかと疑うに足りる事実が窺われないでもない。要するに本件は起訴状の記載だけでは、刑法第百九十七条第一項前段による収賄として起訴したのか、同条項後段による収賄として起訴したのか、明確を欠ぎその何れとも見得られるのである。而かも右両者の間には犯罪の性質その構成要件的特徴において大差はないのであるから原審としては起訴の(一)及び(二)の各収賄の訴因は、請託を受けた収賄であるか否か、すなわち、刑法第百九十七条第一項前段或いは、同条項後段のいづれに該当する事実について審判を求める趣旨であるかを検察官に対し、釈明を求め若し同条項前段に該当する訴因であるとすれば、時効中断について論証を促すとか、または訴因、罰条を請託を受けた収賄に変更を命じ、その変更の命令に応じない場合において始めて検察官の主張する訴因について判決をなすべき職責があること前に説示するところにより自ら明かである。しかるに原審が敍上のごとき釈明権を行使し、訴因、罰条の変更を命じた事跡は記録上見当らず、原審は直ちに検察官の主張する訴因は刑法第百九十七条第一項前段の単純収賄であると即断し、既に刑事訴訟法第二百五十条第五号の三年の公訴時効が完成しているものとして免訴の判決をなしたのはまさに尽すべき審理を尽さず、その訴訟手続に前記法令の違反がありその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから公訴事実(一)及び(二)に対する原判決はその余の論旨について判断をするまでもなく、刑事訴訟法第三百九十七条、第三百七十九条に則り破棄を免れない、論旨は理由がある。

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